
ホワイトノイズは赤ちゃんに効くのか?
ホワイトノイズを聞かせると赤ちゃんが泣き止む、よく眠れる、という話を耳にしたことがある方は多いんじゃないでしょうか。実際に試してみて、効果を感じたこともあると思います。我が家も胎内音の音源をスマホで流して、よく子どもを寝かしつけていました。
専用のホワイトノイズマシンやスマートフォンのアプリは世界中の親たちに使われていて、日本でも育児グッズとして定着しつつあります。
結論から言うと、短期的な泣き止み効果と、眠りを促す効果は研究で裏付けられています。ただし、どれくらいの音量で、どれくらいの距離に置いて、どのくらいの期間使うかによっては、聴覚や言葉の発達に悪い影響が出るおそれがあることもわかってきました。
この記事では、何が効いて何が危ないのかを整理しながら、なぜ効くのかという仕組みについても見ていきます。毎日寝かしつけを頑張っているパパママの参考になれば幸いです。
「ホワイトノイズ」とは何か
ホワイトノイズとは、低い音から高い音までさまざまな周波数の音がほぼ均等に混ざった、ザーッという一様な雑音のことです。テレビの砂嵐の音や雨音、換気扇の音なども、広い意味ではこの仲間に入ります。「ホワイト」という名前は、すべての波長を含む白色光になぞらえて付けられました。
育児の場面では「胎内音」とセットで語られることが多く、市販のホワイトノイズ機器の多くも胎内音を模した音源を収録しています。なぜ赤ちゃんに効くのかは、後の章で詳しく見ていきます。
なぜこれほど広まったのか
ホワイトノイズが育児に使われるようになった背景には、「試したら本当に効いた」という親たちの経験の積み重ねがあります。
特にコリック(疝痛)に悩む親にとっては、すぐに試せて薬も使わない方法だったので、口コミで自然に広がっていきました。コリックとは、理由のはっきりしない激しい泣きを繰り返す状態のことで、生後2週〜3か月の赤ちゃんの5〜19%が経験すると言われています。親たちが感覚的につかんでいたこの効果は、のちの研究でも確かめられています。
ただ、広まる過程で「とにかく聞かせればいい」という使い方も増えました。近年の研究が注意を促しているのは、この点です。
なぜ効くのか:二つのメカニズム
ホワイトノイズが赤ちゃんの寝つきや泣き止みに効く理由として、研究者たちは主に二つの仕組みを挙げています。
メカニズム①:音響マスキング効果
人の耳は眠っている間も働いていて、急な音の変化を「危険信号」として捉えると目が覚めます。赤ちゃんは大人よりも目覚めやすく、小さな音でも起きてしまう傾向があります。
ホワイトノイズは幅広い周波数を均等に含んでいるので、ドアの音や話し声、外の騒音のような突然の音を背景になじませて、目立ちにくくしてくれます。これが音響マスキングです。ICU(集中治療室)のような騒がしい環境でホワイトノイズを流すと、睡眠中に目覚める回数が大きく減ることも研究で示されています。
目覚めの引き金になるのは、音の大きさそのものよりも「背景の音と突然の音の差」です。ホワイトノイズはこの差を小さくすることで、眠りを続きやすくします。この仕組みは大人だけでなく赤ちゃんにも働くと考えられていて、複数の研究がそれを裏付けています。
メカニズム②:胎内音との類似性
もう一つは、ホワイトノイズが子宮の中の音環境に似ている、という説です。
子宮内の音を実際にマイクで計測した研究によると、お腹の中は母親の血流や心拍などを主成分とする低い連続音で満たされています。その音を生まれて間もない赤ちゃんに聞かせたところ、86%が泣き止み、30%が眠りについたことが脳波(EEG)でも確認されました。研究者たちは、この効果の理由を「胎児がお腹の中で長いあいだ聞いていたのと同じ音だから」と考えています。
ホワイトノイズの周波数の特徴は、この胎内音の低い成分と似ています。生まれた後に、聞き慣れた音に似た音にもう一度出会うことで赤ちゃんが安心する、というのが胎内音仮説の考え方です。
マスキング効果と胎内音への親しみは、どちらか一方だけが正しいというものではなく、実際には両方が組み合わさって効いている可能性が高いとされています。
論文①:コリックの赤ちゃんへの効果をRCTで検証
では、研究ではホワイトノイズの効果がどのように示されたのでしょうか。ここでは、コリックの赤ちゃんを対象に、ホワイトノイズとスウィング(揺らすこと)の効果を直接比べた、トルコの研究チームのランダム化比較試験(RCT)を紹介します。
RCTとは、参加者をくじ引きのようにランダムにグループ分けして介入の効果を比べる研究方法で、「本当に効いたのか、偶然なのか」を判断するうえで最も信頼性が高いとされています。
対象は、生後1か月でコリックと判定された赤ちゃん40人とその母親です。1週目は何もせずに、普段の泣き時間と睡眠時間を記録しました。2・3週目は、グループAがスウィング→ホワイトノイズ、グループBがホワイトノイズ→スウィングの順に試し、それぞれの週の泣き時間と睡眠時間を「コリック赤ちゃん日記」に記録しています。ホワイトノイズは55dBに設定し、赤ちゃんから30〜50cm離れた位置で流しました。
その結果、ホワイトノイズを聞かせた週は、スウィングをした週と比べて泣き時間が有意に短く、睡眠時間が有意に長くなりました(いずれもp<0.05)。この傾向は両グループに共通していて、順番による違いは見られませんでした。スウィングも「何もしない週」より効果がありましたが、ホワイトノイズはそれをさらに上回っていました。
研究者たちは、効果の理由として「子宮内の音との類似性」と「生まれた後にその音に再び出会うことによる安心感」という二つの仮説を挙げています。
ただし、この研究には限界もあります。参加者が40人と少ないこと、記録をつけたのが母親自身なので偏りが入りうること、どちらの方法を試しているかを隠す手続き(盲検化)が行われていないことです。
論文②:長く使い続けた場合のリスクを整理したレビュー
「効果があるなら、ずっと流しておけばいいのでは?」と考えた方もいると思います。そこで次に紹介するのが、睡眠中にホワイトノイズを流し続けることが子どもの発達にどう影響するかを整理した、2024年発表のスコーピングレビューです。
スコーピングレビューとは、あるテーマについて世界中で発表された研究を幅広く集め、「どんな研究がどれだけあるか」「何がわかっていて、何がまだわかっていないか」を地図のように整理する研究方法です。一つひとつの実験と違って、研究全体の傾向を見渡せるのが強みです。
5つの学術データベースを横断して644本の文献を調べ、最終的に20本の研究(動物モデル7本、ヒト対象13本)が分析に含まれました。対象となった人数は計9,428名です。
このレビューの結論は、短期的な効果を調べた研究とは違って慎重なものでした。中程度以上の音量のホワイトノイズを流し続けると、動物モデルでは早期の発達への悪影響が見られ、ヒトの研究データもおおむねそれを裏付けていました。具体的に心配されているのは、聴覚の発達、言葉の習得、学習能力への影響です。
とはいえ、これだけで「やっぱりホワイトノイズは危ない」と決めつけるのは早すぎます。低い音量なら睡眠に役立つ可能性を示す研究も複数あり、「ホワイトノイズ=危険」という単純な話ではありません。問題になるのは音量と使う時間で、どこまでなら安全かという基準については、まだはっきりした答えが出ていないのが現状です。
また、市販のホワイトノイズマシンは最大音量で91dBを超えることがあるとも報告されていて、研究チームは機器の最大音量を制限する規制が必要だと提言しています。「赤ちゃん向け」と書かれていても、使い方によっては音を浴びすぎることになりかねません。この点は、次の研究とあわせて知っておいてほしいところです。
論文③:市販のホワイトノイズ機器の音量を実測した研究
最後に、赤ちゃん向けとして売られているホワイトノイズ機器の、実際の音量を測った研究を紹介します。
市販のホワイトノイズマシン8台とiPhoneアプリ6本(計14製品)について、最小音量と最大音量のそれぞれで、スピーカーから10cm・30cm・100cmの距離の音圧を測りました。
その結果、最大音量では14製品中9製品(64.3%)が、10cmの距離で85dBを超えました。これは米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が、大人の2時間の勤務に対して定めている騒音の上限にあたる値です。一方、最小音量ではどの距離でも基準を超えた製品はなく、最大音量でも30cm以上離せば基準内に収まりました。
研究チームはこの結果から、機器をベビーベッドの外側、少なくとも30cm以上離して置くことと、最大音量で使わないことを強く勧めています。また、スマートフォンのアプリは端末の最大出力しだいで音量が決まるため、最も音が大きくなりやすく、注意が必要だとも指摘しています。
なぜ音量が問題になるのか:赤ちゃんの耳のメカニズム
赤ちゃんの耳のつくりは、大人とは違います。耳の穴(外耳道)が短くまだ成熟していないため、同じ音でも、耳の奥に届く音圧が大人より高くなりやすいのです。
また、生まれてからしばらくは、聞こえに関わる神経の回路が急速につくられる「臨界期(クリティカルピリオド)」にあたります。臨界期とは、特定の刺激に脳の神経回路がとくに敏感に反応し、その後の発達の土台がつくられる時期のことです。De Jongら(2024)が報告しているように、この時期に強すぎる音にさらされると、聴覚・言葉・学習の発達に影響が出る可能性があります。
特に心配されているのが、ホワイトノイズを流し続けると、音の変化を聞き分ける脳の力が落ちるという動物実験の結果です。言葉を覚えるには音の変化に敏感であることが大切なので、つけっぱなしが習慣になることのリスクは無視できません。
ただし、これらの知見の多くは動物実験によるもので、人への長期的な影響を調べた研究はまだ限られています。現時点では「リスクがあるかもしれない」という段階で、確かな結論が出ているわけではありません。
日常でできること:論文から導き出せる具体的な実践
ここまでの内容から、ホワイトノイズには効果がありそうで、使い方に気をつければリスクは避けられる、と考えてよさそうです。そこで、家庭でできることを整理します。
①使う場面を「泣き止み・入眠のサポート」に絞る
短期的な効果が最も確かめられているのは、コリックなどで泣いているときになだめる場面と、寝かしつけを助ける場面です。一日中流しておくような使い方は避けて、眠ったら止める習慣をつけましょう。
②音量は55〜60dB以下を目安にする
Sezici & Yigit(2018)の研究では、55dBの設定で効果が確認されています。これは静かなオフィスや図書館くらいの音の大きさです。スマートフォンの無料の騒音計アプリを使って、赤ちゃんの耳の位置で実際に測ってみるのがおすすめです。
③機器は赤ちゃんから30cm以上離れた位置に置く
Hongら(2021)の測定では、30cm以上離すだけで、最大音量でも基準内に収まりました。ベビーベッドの柵の外か、部屋の反対側に置くと安心です。特にスマートフォンのアプリは最大音量が大きくなりやすいので、枕元に置いたり柵に掛けたりするのは避けましょう。
④赤ちゃんが眠ったら止める、または最小音量に下げる
寝つくきっかけとして使い、眠ったら止めるか、最小音量に下げるのがよいでしょう。長く浴び続けるリスクを考えると、一晩中、それも毎晩流し続ける使い方は最も避けたいパターンです。
⑤スウィング(揺らす)との組み合わせも効果的
Sezici & Yigitの研究では、スウィングだけでも有意な効果がありました。ホワイトノイズだけに頼らず、抱っこで揺らすことと組み合わせるのは理にかなっています。薬を使わない方法をいくつか組み合わせれば、それぞれを使う量や時間を抑えながら効果を得られる可能性があります。
我が家ではどうしていたか
冒頭でも書いたとおり、うちの娘はホワイトノイズは全く効かなくて、胎内音だとよく寝る子でした。使い始めたきっかけは、夜の静かな部屋で、ほんの小さな物音にもびくっとしてしまうこと(モロー反射のような動き)でした。胎内音を流しておくと、このびくっとする反応が減りました。生後3か月ごろまではかなり頻繁に使っていて、6か月ごろにかけてだんだん使わなくなり、今はもう使っていません。
論文を読んでから振り返ると、この記事で紹介した二つの仕組みはどちらも思い当たります。小さな物音でびくっとしにくくなったのはマスキング効果だと思いますし、寝つくときに落ち着いていたのは、お腹の中で聞いていた音に似ている安心感のほうだったのかな、という印象です。二つの仕組みが組み合わさって効いている可能性が高い、という研究者の見方とも合っています。もちろん一人の子どもの経験なので本当のところはわかりませんが、ホワイトノイズが合わなかったら胎内音を試してみる、というのはありだと思います。
ただ、使い始めのころはスマホを耳元に置いて、大きな音で流していました。Hongらの研究で、スマホのアプリは最大音量が大きくなりやすく、10cmの距離では基準を超えることもあると知ったときは、申し訳ないことをしたなと心苦しくなりました。生後3か月ごろからは、スマホを耳元から離して置き、音量を下げて、流しっぱなしにしない使い方に変えました。それより前のことは変えられませんが、今のところ明確な問題が起きているわけではないので、前向きに考えるようにしています。
このテーマは論文的には限界点も多く、「多分こうだけど、いずれにせよ安全に使うのがいいよね」というのが私の正直な受け止め方です。長く使ったときの影響はまだはっきりしていないので、使うのをやめるのではなく、距離・音量・時間に気をつけて使う。生後3か月ごろからの我が家の使い方は、ちょうどこの考え方でした。
まとめ:科学的に言えること、まだ言えないこと
まず、科学的に言えることです。ホワイトノイズには、コリックを含めて泣いている赤ちゃんの泣き時間を短くし、睡眠時間を延ばす効果が、少なくとも短期的には認められています。その背景には、周りの音のマスキングと、子宮内の音への親しみという二つの仕組みが関わっていると考えられています。適切な音量(55dB前後)と適切な距離(30cm以上)を守れば、寝かしつけのサポートとして使うことには根拠があります。
次に、まだ言えないこと、注意が必要なことです。大きな音量で長く使い続けた場合に、子どもの聴覚・言葉・学習の発達にどう影響するかについては、動物モデルで心配なデータはあるものの、人での長期的な研究はまだ限られています。どのくらいの音量・期間なら安全かという具体的な基準も、今のところ決まっていません。また、市販の機器の多くは最大音量にすると大人の職場の騒音基準を超えることが実測で示されているので、「赤ちゃん向け」という表示を過信しないことも大切です。
短い時間、ほどよい音量、十分な距離。この三つを守って使うのが、今のエビデンスから考えて妥当な使い方だと思います。
私みたいに大音量で使ってたパパママもいるかと思いますが、あまり自責にかられず前向きに考えましょう。
参考文献
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