指しゃぶりはやめさせるべき?
赤ちゃんが指をくわえている姿を見て、「やめさせたほうがいいのかな」と気になったことはないでしょうか。一方で、無理にやめさせるのもかわいそうな気がしますよね。ネットで調べても「そのうち自然にやめる」「歯並びが心配」という情報が混ざっていて、どれを信じればいいかわからなくなる方も多いと思います。
指しゃぶりについては、「小さいうちはいい」「大きくなったらダメ」という感覚的なアドバイスが多いように思います。でも実際のところ、何歳まではよくて、何歳からは問題になるのでしょうか。そして、やめさせる必要があるとしたら、どんな方法が効果的なのでしょうか。
この記事では、こうした疑問を調べた研究をもとに、年齢ごとに何が言えるのかを整理していきます。
まず結論
指しゃぶりには、赤ちゃんが気持ちを落ち着かせるという発達上の意味があります。小さいうちの指しゃぶりは自然な行動なので、無理にやめさせる必要はありません。
ただし、乳歯が生えそろう3〜4歳を過ぎても習慣が続く場合は、歯並びに影響が出るリスクが高まります。そのころを過ぎても続いているようなら、少しずつ働きかけを始めて、気になる場合はかかりつけの歯科に相談するのがおすすめです。習慣が続いていても、適切な働きかけでやめられることがわかっています。
ここからは、なぜ指しゃぶりに意味があるのか、どの年齢から何が問題になるのか、どんな方法に効果があるのかを、順に見ていきます。
指しゃぶりとは何か
指しゃぶりは「癖」として語られることが多いですが、発達の面から見ると、もっと根本的な意味を持つ行動です。
赤ちゃんは生まれたときから、吸う動作を本能的に持っています。これを「吸啜(きゅうてつ)反射」と呼びます。おっぱいやミルクを飲むために備わった本能ですが、栄養をとることとは別に、吸うこと自体が赤ちゃんの安心感と深く結びついています。
指しゃぶりは、この「吸う」行動の延長線上にあります。お腹が空いているわけでも何かを求めているわけでもなく、不安や刺激を感じたときに、自分を落ち着かせるための行動として出てきます。専門的には「非栄養的吸啜(ひえいようてききゅうてつ)」と呼ばれていて、要するに「栄養をとるためではない、安心のための吸う行動」です。おしゃぶりを使う場合も、この仲間に入ります。
論文①:赤ちゃんが自分を落ち着かせる行動を調べたメタ分析
最初に紹介するのは、生後3年間の赤ちゃんが苦痛を感じたときにどんな行動をとるかを分析した、Gennisら(2022年、Children誌)の系統的レビューとメタ分析です。系統的レビューとは、関連する研究を網羅的に集めて総合的に評価する方法で、一つひとつの研究よりも信頼性の高い結論を出すことができます。
この研究では、13,239件の文献から31本を選び、乳幼児が不安や苦痛を感じたときにどんな行動で自分を落ち着かせようとするかを調べました。対象になったのは、「注意を別のものに向ける」「親に助けを求める」「体を使って自分をなだめる(指しゃぶりなど)」の3種類の行動で、それぞれが年齢によってどう働くかを整理しています。
その結果、生後1年の赤ちゃんでは、指しゃぶりなどの自分をなだめる行動に、苦痛を和らげる効果が確認されました(相関係数r=−0.23。「−」は苦痛が減る方向の関連を示します)。
つまり、苦痛を感じている赤ちゃんが指をしゃぶると、実際に落ち着きを取り戻す傾向がある、ということです。
この関係は、年齢とともに変わっていきます。生後2年目(1〜2歳)になると、指しゃぶりで落ち着く効果は弱まり、代わりに親に働きかけたり、注意を切り替えたりすることが役立つようになります。そして3歳以降では、指しゃぶりの「苦痛を和らげる」働きはほとんど見られなくなります。
指しゃぶりには、発達の段階に応じた役割があるということです。生後1年の赤ちゃんにとっては、親が来る前に自分で落ち着こうとする方法として意味がありますが、それは成長とともに、自然と別の方法に置き換わっていくものでもあります。
吸うことで痛みが和らぐという研究
少し話を広げると、吸う行動そのものに痛みを和らげる働きがあることも、複数の研究で示されています。
NICU(新生児集中治療室)では、砂糖水(ショ糖)を口に含ませることと、おしゃぶりで吸わせることが、どちらも薬を使わずに処置の痛みを和らげる方法として使われています。Liuら(2017年、Medicine誌)の系統的レビューは、この二つを組み合わせた効果を調べたものです。
採血などの処置を受ける赤ちゃんに、砂糖水とおしゃぶりを組み合わせて使うと、痛みのスコアが下がり、泣いている時間も短くなりました(7本のランダム化比較試験、599名)。
これはNICUという特殊な環境での結果なので、家庭での指しゃぶりにそのまま当てはめることはできません。ただ、吸う動作が赤ちゃんを落ち着かせる仕組みにつながっていることの、体の面からの裏付けとして理解できます。赤ちゃんが指をしゃぶって落ち着くのは、気のせいでも「ただの癖」でもなく、体に備わった仕組みの表れなのです。
吸うことで落ち着く理由としては、今のところ2つの仕組みが考えられています。ひとつは、吸う動作が口の中の触覚を刺激して、痛みの信号を脊髄のレベルで和らげる「ゲートコントロール」と呼ばれる仕組みです。もうひとつは、母乳などの甘みを吸うときに、脳内の天然の鎮痛物質(内因性オピオイド)が出るという経路です。指しゃぶりには甘みはないので、主に前者の仕組みが働いていると考えられています。
また、おしゃぶりについては、眠るときに使うとSIDS(乳幼児突然死症候群:健康に見える赤ちゃんが睡眠中に突然亡くなってしまうこと)のリスクが大きく下がるという研究もあります(Liら、2006年、BMJ誌。カリフォルニア州の497名を対象にした症例対照研究)。指しゃぶりとおしゃぶりは別のものですが、「吸う」行動が赤ちゃんの安全と安心の両方に関わっていることを示す知見として、補足で紹介しておきます。
なぜ子どもは指しゃぶりをするのか
ここまでの研究をまとめると、赤ちゃんが指をしゃぶる理由が見えてきます。
生まれて間もない時期の赤ちゃんは、気持ちをコントロールする力(情動調節)がまだ育っている途中です。だからこそ、親が来る前に自分で自分を落ち着かせる手段が必要で、指をしゃぶることは、その限られた手段の中でいちばん身近で、効果のある方法のひとつなのです。
「やめさせたほうがいいかな」と気になりながらも、なんとなくそのままにしていた方も多いかもしれません。その感覚は、発達の研究から見ても間違っていません。小さいうちの指しゃぶりは、子どもが自分で自分を守ろうとしている行動なので、無理にやめさせる必要はありません。ただし、それはあくまで「小さいうちは」の話です。
論文②:指しゃぶり・おしゃぶりと歯並びの関係を調べたメタ分析
次に紹介するのは、指しゃぶりやおしゃぶりの習慣と歯並びの関係を調べた、Faryadら(2026年、Dentistry Journal誌)の系統的レビューとメタ分析です。2000〜2024年に発表された観察研究から12本を選び、「前歯部開咬(ぜんしぶかいこう)」と「臼歯部交叉咬合(きゅうしぶこうさこうごう)」がどのくらい起きているかを分析しました。
前歯部開咬とは、奥歯を噛み合わせたときに、上下の前歯の間にすき間ができてしまう状態です。前歯で食べ物を噛み切りにくくなったり、「さしすせそ」が発音しにくくなったりすることがあります。臼歯部交叉咬合は、上下の奥歯が正しく噛み合わず、横にずれている状態です。どちらも、長く続く指しゃぶりで起きやすい歯並びの問題として知られています。
分析の結果、指しゃぶりをしている子どもは、していない子どもに比べて、前歯部開咬のリスクが約5倍高いことが示されました(オッズ比=5.0、p<0.001)。
オッズ比は、リスクの高さを比べるときに使う指標です。12本の研究が、そろってこの傾向を示していました。
指しゃぶりが歯並びに影響するのは、物理的な力がかかるからです。指を口に入れ続けると、上の前歯には前に押し出す力が、下の前歯には後ろに押し込む力がかかり続けます。また、上あごが横から押されて幅が狭くなるので、奥歯の噛み合わせにも影響が出ます。
ここで大事なのが、習慣がいつまで続くかです。乳歯が生えそろう3〜4歳ごろまでに習慣が自然になくなれば、歯並びへの影響は戻りやすいとされています。逆に、その時期を過ぎても続くと、歯やあごの成長が進むなかでリスクが積み重なっていきます。「まだ小さいから」と先送りにせず、3〜4歳を過ぎても続いているようなら、小児歯科への相談を考えておくとよいと思います。
また、同じ「吸う習慣」でも、指しゃぶりとおしゃぶりでは影響の出方が違います。前歯部開咬のリスクは両者で大きな差はありませんでしたが、奥歯のずれ(臼歯部交叉咬合)については、おしゃぶりのほうが指しゃぶりよりもリスクが高いという結果でした(オッズ比2.66、p<0.001)。おしゃぶりは上あごを横から圧迫する形になりやすく、あごの横幅を狭める方向に力がかかりやすいためと考えられています。
歯並びへの影響をどう考えるか
ひとつ補足しておくと、「指しゃぶりをすると歯並びが悪くなる」というのは、正確な言い方ではありません。より正確には、「長く続く指しゃぶりは、歯並びに影響するリスクを高める」です。
研究が示しているのは、あくまで集団としての傾向です。指しゃぶりをしていても歯並びに問題が出ない子もいますし、やめた後に自然に戻る場合もあります。遺伝やあごの形、習慣の強さ(頻度や時間)なども関係しています。なので、お子さんの指しゃぶりを見て「絶対に歯並びが悪くなる」と心配しすぎる必要はありません。
一方で、習慣が長く続くほどリスクが積み重なるのも事実です。目安として、3〜4歳を過ぎても続いているようなら、「様子見」から「少し働きかけてみる」に切り替える時期と考えるとよいでしょう。
論文③:指しゃぶりをやめるための方法を比べたコクランレビュー
では、やめさせる必要があるとき、どんな方法が効くのでしょうか。Borrieら(2015年)は、指しゃぶりやおしゃぶりの習慣をやめるための方法を比べた系統的レビューです。コクランレビューと呼ばれるもので、エビデンスを特に厳しい方法で評価する国際的な組織「コクラン」がまとめており、医療の現場での判断にも広く使われています。
このレビューでは、1967〜1997年に発表された6本のランダム化比較試験(参加者をランダムに分けて方法の効果を比べた研究)、合計252名を分析しています。評価されたのは、主に次の3つの方法です。
歯科矯正装置(口蓋クリブ・口蓋アーチ)
歯科医院で上あごの内側に取り付ける固定式の装置で、指を口に入れても前のような満足感が得られなくなるようにするものです。何もしない場合と比べて、習慣をやめられる確率が約6倍高くなっていました(リスク比=6.53。リスク比は、方法を試した場合とそうでない場合の確率を比べた数値です)。
心理的な働きかけ(ほめる・動機づけなど)
「指をしゃぶらなかった日にほめる・ご褒美をあげる」「指しゃぶりで歯がどう変わるかを鏡で見せて、やめる気持ちを引き出す」といった、家庭でもできる方法です。こちらも何もしない場合と比べてはっきりした効果があり(リスク比=6.16)、効果の大きさは矯正装置とほぼ同じでした。
苦い液を指に塗る方法
市販の専用液を指に塗り、しゃぶったときの苦さで習慣を断つ方法です。心理的な働きかけと比べると効果が劣る傾向がありましたが、統計的にはっきりした差は出ていません。手軽に始められるので、最初の選択肢として今も使われています。
日常でできること:論文から導き出せる実践
ここまでの研究をもとに、家庭でできることを年齢ごとに整理します。
① 3歳未満は見守る
この時期の指しゃぶりには発達上の意味があるので、やめさせようとしなくて大丈夫です。代わりに、どんなときに指しゃぶりが増えるかを見ておくと役に立ちます。「眠いとき」「新しい場所や人に緊張したとき」「退屈しているとき」など、パターンが見えてくると、その場面に合わせた関わり方ができるようになります。
② 3〜4歳:自然にやめるか見守りつつ、できたらほめる
多くの子どもは、この時期に自然と習慣が薄れていきます。無理に禁止するより、しゃぶっていないときにさりげなくほめるほうが効果的です。「えらかったね」「かっこいいね」くらいの声かけで十分です。禁止や注意をくり返すと、かえって指しゃぶりに意識が向いて習慣が強まることもあるので、研究でも、できていることに目を向ける方法がとられています。
また、3〜4歳を過ぎても続くようなら、小児歯科に相談するのがおすすめです。すぐに治療というわけではなく、歯並びの状態を確認してもらうだけでも、これからどうするかを考える材料になります。
③ 4〜5歳:本人のやる気を引き出す
子どもが自分の歯に関心を持ち始める年齢です。研究では、鏡で自分の歯を見せながら「指をしゃぶり続けると、歯がこんなふうに変わるかもしれないよ」と、情報として伝える方法が使われていました。脅したり恥ずかしい思いをさせたりするのではなく、子どもが自分で「やめてみようかな」と思えるような伝え方が大切です。子どもの方から「もうやめられるかな」と言ってくることがあれば、それはいいタイミングです。
④ 5歳以降も続く場合:ご褒美の仕組みと歯科への相談を組み合わせる
「指しゃぶりをしなかった日にシールを貼る」「○日続いたらお楽しみがある」といったご褒美の仕組みは、研究で使われた方法を家庭向けにしたものです。最初は「今日の夕ごはんまで」くらいの短い目標から始めて、少しずつ延ばしていくと、できた経験が積み重なっていきます。「寝るときだけ」「この場所では」など、場面を限ってルールを決めるのも、全部禁止するより受け入れやすいことがあります。
家庭での取り組みと並行して、歯科で歯並びの状態を確認してもらうのがおすすめです。矯正装置(口蓋クリブ)が必要かどうかは、歯並びの状態を見たうえで、歯科医師と一緒に判断しましょう。
我が家ではどうしていたか
うちの娘は、生まれたころから指をよくしゃぶっていて、今もまだしゃぶっています。特に眠いときによくしゃぶりますし、何か嫌なことや怖いことがあって泣いているときにも、自分で指をしゃぶって気持ちを落ち着かせようとしているように見えます。研究で言われている「自分をなだめる行動」は、こういうことなのかな、と実感しています。1〜2歳ごろからは指しゃぶりで落ち着く効果が弱まって、別の方法に置き換わっていくとされているので、娘もこれから少しずつ変わっていくのかな、と思いながら見ています。
おしゃぶりは、生後3か月ごろまでは使っていました。自己紹介の記事でも書きましたが、おしゃぶりについては、SIDSの予防につながるという研究と、歯並びに影響するという研究の両方があって、どうすればいいか迷ったテーマでした。ただ実際には、娘がおしゃぶりをあまり好きではなかったので、長く使うことはありませんでした。
今のところ、我が家では気にせず見守っています。3歳くらいになってもまだ続いていたら、そのときにどうするか考えようと思っています。指しゃぶりが気になっている方も、小さいうちはそこまで心配しすぎなくてもいいのかもしれませんね。
まとめ:科学的に「言えること」と「言えないこと」
今回の研究から言えることをまとめます。
科学的に言えること
生後1年の指しゃぶりは、赤ちゃんが気持ちを落ち着かせるための自然な行動で、実際に効果がある
吸う行動そのものに、落ち着かせたり痛みを和らげたりする働きがあることを裏付ける研究がある
指しゃぶりの習慣は、3〜4歳を過ぎて続くほど歯並びに影響するリスクが高まる
指しゃぶりをしている子は、前歯部開咬(前歯のすき間)のリスクが約5倍高い
矯正装置と心理的な働きかけ(ほめる・動機づけ)は、どちらも習慣をやめるのに効果がある
科学的にまだ言えないこと
何歳からの指しゃぶりが歯並びに影響するかの正確な境目(研究によってばらつきがある)
どの方法が、どんな子どもに一番効くのか(研究の質と数が足りない)
やめさせるのに一番よい時期と方法の組み合わせ
子どもの指しゃぶりを見て「どうしよう」と悩むのは自然なことです。でも、指しゃぶりに発達上の意味があると知っておくと、向き合い方も少し変わってくると思います。小さいうちは見守って、3〜4歳を目安に少しずつ働きかけ、気になるときは歯科に相談してみてください。
参考文献
Gennis, H.G., Bucsea, O., Badovinac, S.D., Costa, S., McMurtry, C.M., Flora, D.B., & Pillai Riddell, R. (2022). Child Distress Expression and Regulation Behaviors: A Systematic Review and Meta-Analysis. Children, 9(2), 174. https://doi.org/10.3390/children9020174
Liu, Y., Huang, X., Luo, B., & Peng, W. (2017). Effects of combined oral sucrose and nonnutritive sucking (NNS) on procedural pain of NICU newborns, 2001 to 2016: A PRISMA-compliant systematic review and meta-analysis. Medicine, 96(6), e6108. https://doi.org/10.1097/MD.0000000000006108
Li, D.K., Willinger, M., Petitti, D.B., Odouli, R., Liu, L., & Hoffman, H.J. (2006). Use of a dummy (pacifier) during sleep and risk of sudden infant death syndrome (SIDS): population based case-control study. BMJ, 332(7532), 18–22. https://doi.org/10.1136/bmj.38671.640475.55
Faryad, A., Muwaquet Rodriguez, S., & Hijazi Alsadi, T. (2026). The Role of Digit- and Pacifier-Sucking Habits on Malocclusion Development in Children: Anterior Open Bite and Posterior Crossbite—A Systematic Review & Meta-Analysis. Dentistry Journal, 14(1), 55. https://doi.org/10.3390/dj14010055
Borrie, F.R.P., Bearn, D.R., Innes, N.P.T., & Iheozor-Ejiofor, Z. (2015). Interventions for the cessation of non-nutritive sucking habits in children. Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 3. Art. No.: CD008694. https://doi.org/10.1002/14651858.CD008694.pub2


