「抱き癖がつく」は科学的に否定されている?

初公開 更新 文:論文好きな薬屋さん

赤ちゃんが泣いて抱っこしようとしたときに、「そんなに抱っこしたら、抱き癖がついちゃうよ」「少しは泣かせておかないと自立しない子になるよ」と言われたことはないでしょうか。親戚の集まりや年上の方との会話、昔の育児書などで、一度は耳にしたことがあると思います。

善意からの言葉だとわかっていても、泣いている我が子を前に、抱っこしていいのか迷ってしまった方もいるんじゃないでしょうか。抱っこしすぎると、本当に子どもの自立は妨げられるのでしょうか。泣いたらすぐに応えるのは、子どもを甘やかすことになるのでしょうか。

この記事では、この疑問に研究がどんな答えを出しているのかを、論文をもとに見ていきます。


まず結論から

「抱き癖がつく」という考えを支持する科学的な根拠は、今のところありません。

むしろ、赤ちゃんが泣いたときにすぐ応えて抱っこすることは、気持ちの安定につながり、自立の土台になると考えられています。意外に感じた方もいるかもしれません。

なぜ抱っこが自立につながるのか、どんな仕組みで、どこまで言えることなのかを、研究の限界も含めて順に見ていきます。


「抱き癖がつく」という考えはどこから来たのか

「抱き癖」という考え方が育児の場で広まったのは、20世紀前半のことです。当時の育児の考え方の背景には、行動主義と呼ばれる心理学の流れがありました。行動主義は、人の行動は刺激と反応のくり返しでつくられる、という考え方で、平たく言えば「くり返した行動が習慣になる」ということです。

この考え方からすると、「泣く→抱っこされる」をくり返せば、赤ちゃんは「泣けば抱っこしてもらえる」と覚えて、もっと泣くようになる、という理屈が成り立つように見えました。実際、1920〜30年代にアメリカで広まった育児書には、「赤ちゃんを抱っこしすぎてはいけない」「授乳は時間を決めて行い、それ以外は泣かせておくべき」といった指導が書かれていました。この考え方が戦後の日本にも伝わり、「抱き癖がつく」という言葉として定着していきます。

当時の専門家たちが意地悪だったわけでも、知識がなかったわけでもありません。子どもに自立した大人になってほしいという願いから、当時の科学的な理解に基づいて真剣に考えた結果が、そうした助言になったのだと思います。ただ、その前提だった「泣きに応えることは、泣く行動を強めるだけ」という理解が、その後の研究で大きく書き換えられることになりました。


なぜその考えが正しいと信じられてきたのか

「抱き癖がつく」という考えが長く残ってきたのには、いくつか理由があります。

ひとつは、感覚的に「それらしい」ことです。職場でも家庭でも、要求に応え続けると要求が増えるように見えることはありますよね。赤ちゃんにも同じ理屈が当てはまりそうに感じられます。

もうひとつは、文化的な背景です。「甘やかさない」「苦労させると強くなる」という価値観は多くの社会で根強く、育児でも「泣かせておくと我慢強くなる」という考えと結びつきやすかったのだと思います。

そして、研究の結果が一般に届くまでには時間がかかります。研究の世界で考え方が変わっても、それが育児の現場に広まるまでに何十年もかかることは珍しくありません。信じるだけの理由があったからこそ、この考えは広まった、ということも頭に置きながら、研究が実際に何を示しているかを見ていきましょう。


論文①:応答的な養育の効果をまとめたレビュー

最初に紹介するのは、先進国と途上国の両方の研究をもとに、「応答的養育(responsive parenting)」の効果を幅広くまとめた、Eshelら(2006年)のレビューです。

応答的養育とは、赤ちゃんのサインに気づき、その意味を読み取って、すぐに適切に応えることです。難しく聞こえますが、育児の場面でいうと、赤ちゃんが泣いたときに「お腹が空いたのかな、眠いのかな」と考えながら近づき、表情を見たり体を触って確かめたりして、抱き上げたり、授乳したり、声をかけたりする。この一連の関わりが応答的養育です。

レビューの結果、応答的な養育を受けた乳幼児は、言葉の発達が進み、認知の力が伸び、気持ちが安定し、社会的な力も育ちやすいことが、くり返し確認されていました。一方で、応答の少ない養育は、行動の問題や認知の発達の遅れと関連していました。

また、応答が少ないとされた養育者が訓練を受けた研究では、子どもが安定した愛着を示した割合が、訓練を受けたグループで62%、受けなかったグループで28%でした。研究者たちは、関わり方への働きかけが愛着の形成に実際に影響しうることを示す、強い証拠だと述べています。

さらにこのレビューでは、シカゴの困難を抱えた家庭の子どもたちを追った研究も紹介されています。乳児期の母親の応答が最も少なかったグループでは、10歳の時点で行動の問題が見られた割合が26%だったのに対し、応答が中くらいのグループでは16%、多かったグループでは0%でした。

Eshel et al., 2006, Bulletin of the World Health Organization

この研究からわかるのは、抱っこが多いか少ないかという量よりも、「気づいて、応えようとするかどうか」という関わりの質が、子どもの育ちを幅広く支えているということです。抱っこさえすればいいというより、「この子の声を聞こうとしている」という姿勢そのものが土台になるのだと思います。


論文②:親の応答と子どもの気持ちの安定を追った研究

応答的な養育が子どもの発達にいいことはわかりましたが、なぜそうなるのかがわかると、もう少し納得しやすくなります。ここでは、アメリカ中西部の102家族を対象に、生後7か月から6歳半まで7回にわたって親子のやりとりを観察した、Kim & Kochanska(2025年)の研究を紹介します。

この研究では、母親と父親の両方について、親の応答性と、子どもの気持ちの乱れやすさの関係を、両方向から分析しています。特徴は、「Aさん親子は親が応答的で、子どもも安定している」という家庭ごとの違いだけでなく、「同じ親子のなかで、親がいつもより応答的だった時期のあと、子どもの気持ちは安定したか」という変化まで調べている点です。

その結果、幼児期の前半(よちよち歩きのころ)には、親がいつもより応答的に関わったあと、子どもの気持ちが安定しやすくなっていたことがわかりました。この関係は、母親でも父親でも確認されています。

一方、生後7か月ごろの乳児期と6歳半の就学期には、こうしたはっきりした関係は見られませんでした。また、父親では、子どもの気持ちの状態に合わせて関わる量を調整している様子も見られました。

Kim & Kochanska, 2025, Emotion

では、なぜ応えてもらうことが気持ちの安定につながるのでしょうか。愛着の研究では、次のように考えられています。

赤ちゃんは、泣いたときや不安なときに、養育者にサインを送ります。そのサインにすぐ、くり返し応えてもらううちに、赤ちゃんの中に「この人は困ったときに助けてくれる」という見通しができていきます。この見通しが、安全基地(secure base)と呼ばれる考え方の中心にあるものです。

安全基地がある子どもは、知らない場所や新しいことに出会ったときにも、「困ったら戻れる場所がある」という安心感を持てます。だからこそ、思い切って周りを探索できるし、転んでもまた立ち上がれる。頼れる存在がいるからこそ、自分から外に向かっていける、というわけです。

そして、子どもが成長して自分で気持ちを扱えるようになるにつれて、親の関わりの影響の出方も変わっていくと考えられます。これは「ずっと抱っこし続けなければならない」という話ではなく、応えてもらった経験を土台にして、子どもが自分の足で立てるようになっていく流れだと受け取るとよいと思います。


論文③:愛着が1歳から4歳でどう変わるかを追った研究

ここまで読んで、「これまであまり応えてあげられていなかったかもしれない」「もう遅いのでは」と感じた方もいるかもしれません。そんな方に知っておいてほしいのが、オーストラリアで行われた大規模な追跡研究(McIntoshら、2024年)です。

この研究では、1歳の時点で314組、4歳の時点で368組の親子を対象に、愛着のタイプと養育者の感受性(子どものサインに気づいて応える力)の関係を調べました。愛着のタイプは「ストレンジ・シチュエーション法」という、知らない部屋で子どもと保護者を一時的に離し、再会したときの子どもの反応から評価する方法で調べています。

その結果、1歳の時点で不安定型とされた子どものうち、60%が4歳までに安定型に変わっていました。愛着のタイプは決まったものではなく、関わり方によって変わりうるということです。

4歳までに新たに安定型になった子どもでは、その間に養育者の感受性が上がっていました。逆に、安定型でなくなった子どもでは、感受性が下がっていました。また、安定型の割合は1歳で59%、4歳で71%と増えていて、成長とともに多くの親子が安定した関係を築いていく傾向も見られました。

McIntosh et al., 2024, Journal of Child Psychology and Psychiatry

どこから始まったとしても、関わり方が変われば愛着も変わりうる。今日からの関わりに目を向けていいんだ、と思える結果ではないでしょうか。


注意点:すべての子に同じように当てはまるわけではない

ここまでは「応答的な養育がいい」という大きな流れを見てきましたが、研究者たちが挙げている注意点もあります。

文化や家庭による違い

Eshelら(2006)も指摘しているように、研究の多くは先進国、特に英語圏で行われていて、文化や家庭の環境が違っても同じ結果になるかは、まだ十分に確かめられていません。文化によって子育てのスタイルや子どもへの期待は違うので、「応答的」の意味合いも変わってくるかもしれません。

子どもの気質

Kim & Kochanska(2025)は、子どもの怒りやすさ(anger proneness)が、気持ちの安定のしやすさに影響することも報告しています。気質的に感情が強い子どもは、同じように応答的に関わっても、気持ちが安定しにくい傾向がありました。応えることは大切ですが、子どもの反応は気質によって違うので、思ったような変化が見えなくても関わり続けることが必要な場合もあります。

抱っこの回数そのものを測った研究は少ない

紹介した研究の多くは、抱っこの回数を直接測ったものではなく、応答的な養育という広い意味での関わりを評価しています。なので、「何分以上抱っこすればいい」「1日何回応えれば十分」といった具体的な基準は、今の研究からは出せません。

長い目で見た自立への影響はまだわかっていない部分が多い

「抱っこが多いほど自立が早まる」というような強い主張については、幼児期より後の自立を長く追った研究がまだ少なく、言い切るには慎重さが必要です。


日常でできること:論文から導き出せる実践

研究の結果から、毎日の育児に取り入れられることを考えてみます。

① 泣いたら応える、を基本に

乳幼児期に「泣いたら応える」ことは、研究の結果と一致しています。すぐに泣き止まなくても、「ここにいるよ」と声をかけたり抱っこしたりする。その積み重ねが安全基地につながっていきます。応え方は、声かけでも抱っこでも、子どもに伝わる形なら何でも大丈夫です。

② まずは子どものサインを見ることから

Eshelら(2006)がまとめた応答的養育の3つのステップのうち、最初にあるのは「観察」です。泣いている理由が空腹なのか、眠気なのか、不安なのか、不快なのかを考えるために、まず子どものサインを見る。「なぜ泣いているんだろう」と関心を向けること自体が、応答的な関わりの出発点です。

③ 完璧でなくても、関わろうとし続ける

安全基地は、困ったときに応えてもらう経験の積み重ねでできていくものだと考えられています。毎回うまく応えられなくても、「いつでも関わろうとしている」ことが伝わればいいのだと思います。

④ 成長に合わせて関わり方を変えていく

Kim & Kochanska(2025)では、6歳半の就学期には、親の応答と子どもの気持ちの安定のあいだにはっきりした関係は見られなくなっていました。これは「関わらなくていい」ということではなく、子どもが自分で気持ちを扱えるようになるにつれて、親の支え方の形が変わっていくということだと思います。スキンシップから言葉でのやりとりへ、手を貸すことから見守ることへ、少しずつ移っていくのが自然な流れです。

⑤ パートナーの関わりも大切に

Kim & Kochanska(2025)では、父親の応答も子どもの気持ちの安定に影響していました。育児を一人で抱え込まず、パートナーと分担することは、子どもにとっても親にとってもいいことです。


我が家ではどうしていたか

我が家でも、義母からはよく「抱き癖がつくよ」と言われます。それでも、特に夫婦で決めていたわけではないのですが、娘が泣いていたら、どちらかがとにかく抱っこするようにしています。

抱っこが大変だと思ったことは、夫も私も今のところありません。抱っこさせてもらえるのは今のうちだけだと思うので、二人とも大事に抱っこしたいなと思っています。ただ、それはうちがまだ子ども一人だからかもしれません。子どもが2人以上いる家庭では大変だと思いますし、うちも子どもが増えたら大変になるだろうなと思っています。なので、無理のない範囲で、できるだけ抱っこしてあげられたらいいなと考えています。

最近の娘は、一人で遊んでいても、ときどき振り返ってこちらを確認したり、何かあると走って戻ってきたりします。記事で紹介した「安全基地」は、こういう姿のことなのかもしれません。話しかけの記事でも書きましたが、娘が最初に意味をわかって言ったと思える言葉は「だっこ」で、今も手を広げて「だっく」と言いながら近づいてきます。困ったときや甘えたいときに戻ってこられる場所になれていたらいいな、と思っています。

抱き癖を気にして迷っている方も、抱っこしてあげたいときは、あまり気にせず抱っこしてあげていいのかもしれませんね。


まとめ:科学的に言えること、言えないこと

最後に、ここまでの内容を整理します。

科学的に言えること

泣いたときにすぐ応えて抱っこするような応答的な関わりは、愛着の安定、認知や言葉、気持ちの発達、感情をコントロールする力と広く関連していて、これは複数の国、複数の種類の研究でくり返し確認されています。「抱き癖がつく」という考えを支持する科学的な根拠は、今のところありません。応答的な養育は甘やかしではなく、自立の土台になるものとして理解されています。また、愛着のタイプは決まったものではなく、関わり方が変われば変わりうることも示されています。

科学的にまだ言えないこと

「抱っこの回数や時間が多いほどいい」という具体的な基準は示されていません。文化の違いや子どもの気質が結果にどう影響するかについても、さらに研究が必要です。学童期より後の自立への影響を直接追ったデータも、まだ十分ではありません。また、研究にはそれぞれサンプルの偏りや測り方の限界があり、今回紹介した研究も、人種や経済的な背景、文化が比較的そろった集団が中心であることは頭に置いておく必要があります。

それでも、今の研究が示している方向ははっきりしています。赤ちゃんのサインに気づいて温かく応えることは、過保護ではなく、子どもが自分の世界を広げていくための出発点です。

とはいえ、「完璧に応えなければ」と自分を追い詰める必要はありません。できるときに、できる形で、応えようとすること。その姿勢が、長い時間をかけて子どもの安全基地になっていくんだと思います。


参考文献

Eshel, N., Daelmans, B., Cabral de Mello, M., & Martines, J. (2006). Responsive parenting: Interventions and outcomes. Bulletin of the World Health Organization, 84(12), 991–998. https://doi.org/10.2471/blt.06.030163

McIntosh, J. E., Opie, J., Greenwood, C. J., Booth, A., Tan, E., Painter, F., Messer, M., Macdonald, J. A., Letcher, P., Olsson, C. A., & ATPG3 MAC Lab and Consortium. (2024). Infant and preschool attachment, continuity and relationship to caregiving sensitivity: Findings from a new population-based Australian cohort. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 65(1), 64–76. https://doi.org/10.1111/jcpp.13865

Kim, J., & Kochanska, G. (2025). Transactional dynamics between parental responsiveness and child emotion dysregulation: A longitudinal study from infancy to early school age. Emotion, 26(2), 407–419. https://doi.org/10.1037/emo0001588