赤ちゃんに話しかけることの意味は

初公開 更新 文:論文好きな薬屋さん

赤ちゃんにどれくらい話しかけていますか?

「なるべくたくさん話しかけたほうがいい」という話はよく聞きますよね。育児書にも書いてあるし、保健師さんに言われた方もいると思います。日常のふとした瞬間に、赤ちゃんに向かって話しかけているお父さんお母さんは多いはずです。

でも、「なぜ声をかけるといいのか」「何が大事なのか」を説明しようとすると、意外と難しくないですか?なんとなく「いいこと」だと思っているけれど、理由はよくわからない、という方も多いと思います。

この記事では、赤ちゃんへの声かけが発達にいいと言われる根拠と、どうすればもっと効果的になるのかを整理します。


まず結論

赤ちゃんへの声かけは、言葉の発達にも社会性の発達にも良い影響があることが、多くの質の高い研究で確認されています。科学的にもかなりしっかりした話です。

そのうえで、研究からはもうひとつ大事なことがわかっています。声かけの効果を高める鍵は「応答性」、つまり赤ちゃんの声や行動にタイミングよく反応することです。たくさん話しかければいいというより、赤ちゃんのサインに応えながら話しかけるほうが効果的で、これは言葉の発達に遅れがある子どもにも当てはまります。

なぜ応答性が大事なのか、どんなふうに反応すればいいのかを、3本の研究から見ていきます。


「赤ちゃんへの声かけがいい」という話はどこから来たのか

「声をかけると子どもの発達にいい」という考え方が広まったきっかけのひとつは、1990年代のアメリカの研究です。研究者のベティ・ハート氏とトッド・リズリー氏は、子どもが3歳になるまでに聞いた単語の数が、その後の知的発達や学力と強く関連することを示しました。「3000万語の差」として知られるこの研究によって、親が子どもに語りかける言葉の環境が発達を大きく左右する、という考えが世界中に広がりました。

この方向性は、その後の研究でも繰り返し支持されています。親から豊かな言葉をかけられた子どもは、語彙の発達が早く、読む力も高い傾向があることが、多くの研究で示されてきました。声をかけることには、確かに意味があるのです。

ただ、研究が積み重なるにつれて、もう少し細かいこともわかってきました。言葉の量が大事なのはその通りとして、「どんなふうに」関わるか、特に親が子どもにどう応じるかも、同じくらい重要だということです。たとえば、テレビやラジオから大量の言葉を聞かせても、言葉の発達にはほとんど効果がないことが複数の研究で確認されています。子どもは一方的に流れてくる音ではなく、自分に向けられた声のやりとりの中で言葉を身につけていきます。

こうした知見を受けて、研究者たちは関わり方の丁寧さや語彙の多様さ、話題の具体性など、親の言葉かけをいろいろな面から評価するようになり、「何が発達に効くのか」をより詳しく調べ始めました。


論文①:喃語への応答のタイミングを比べた実験

最初に紹介するのは、声かけの「タイミング」が言葉の習得にとって重要であることを、実験で直接確かめたコーネル大学の研究です。

喃語(なんご)とは、赤ちゃんが「あーあー」「ばばば」などと声を出す、言葉になる前の発声のことです。生後6か月ごろから活発になり、やがて最初の言葉へとつながっていきます。一見ランダムに見えるこの発声が、親とのやりとりの中で形を変えていくことを、この研究は示しました。

対象は、生後9.5か月の赤ちゃんとお母さん60組です。お母さんは赤ちゃんと自由に遊びながら、「あ」や「い」のような、のどを開いてはっきり出す母音か、「ば」「ま」のように子音と母音がセットになった音のどちらかを、赤ちゃんに聞かせました。

このとき、赤ちゃんが声を出したタイミングに合わせて反応するグループ(随伴条件)と、赤ちゃんの発声とは関係のないタイミングで同じ音を出すグループ(非随伴条件)に分けました。非随伴条件のお母さんは、随伴条件のお母さんとまったく同じ音を同じ量だけ使っています。つまり、赤ちゃんが受け取る音の量と内容は同じで、変えたのは「赤ちゃんの声に応えているかどうか」というタイミングだけです。測ったのは、赤ちゃんが出す音の質の変化です。

その結果、随伴条件のグループでは、赤ちゃんの発声の質が実験中に変化しました。はっきりした母音を聞かせたグループでは母音が増え、子音+母音の音を聞かせたグループではそのパターンが増えています。非随伴条件では、同じ音を同じ量だけ聞かせても、こうした変化は起きませんでした。

さらに、赤ちゃんは親の音をそのまままねたわけではありませんでした。親がどんな単語を使ったかではなく、言葉を組み立てる音の型(音韻のパターン)を自分で取り出して、発声に取り込んでいたのです。

Goldstein & Schwade, 2008, Psychological Science

9か月の赤ちゃんが、短いやりとりの中でこれだけ細かい学習をしていると思うと驚かされます。この研究からわかるのは、声かけが効く鍵は応答のタイミングにある、ということです。同じ音を同じ量だけ聞かせても、赤ちゃんの声に応じていなければ、学習は起きませんでした。


論文②:親へのコーチングで語彙が伸びるかを調べたRCT

では、この「応答性」を毎日の声かけで意識したら、子どもの発達は実際に変わるのでしょうか。ワシントン大学の研究チームは、この問いをランダム化比較試験(RCT)で確かめました。RCTは、介入の効果を調べる研究の中で最も信頼性が高いとされる方法です。

対象は、発達に特別な課題のない生後6か月の赤ちゃんがいる71家族です。親へのコーチングを受けるグループ(介入群)と受けないグループ(対照群)にランダムに分け、コーチングは赤ちゃんが6か月・10か月・14か月のときに行い、18か月の時点で言葉の発達を測りました。

コーチングの内容は大きく2つです。ひとつは、少し高めの声でゆっくり、母音を少し伸ばして話しかける「赤ちゃん言葉(パレンティーズ)」を意識して使うこと。もうひとつは、大人と赤ちゃんが交互に声を出し合う「会話のキャッチボール」を増やすことです。

コーチングでは、家庭で録音した親自身の声かけをコーチと一緒に聞きながら、「今ここで赤ちゃん言葉を使っていますね」「ここで赤ちゃんが声を出したときに返してあげると、こんなやりとりになります」といったフィードバックを受けました。おむつ替えや食事、買い物中など、日常のどんな場面で実践できるかも話し合っています。親の多くは、録音を聞いて初めて、自分が赤ちゃん言葉を使っていることに気づいたそうです。

その結果、介入群の子どもは18か月の時点で、有意に多くの言葉を話していました。親の赤ちゃん言葉と会話のキャッチボールが増えるほど子どもの語彙も伸びていて、とくに会話のキャッチボールの変化と子どもの語彙の相関はr = 0.68と、強い関連でした。

この効果は、家庭の収入や親の学歴に関係なく見られました。語彙の差は経済的な格差と結びつきやすいと言われますが、関わり方を変えることで、その差を縮められる可能性があるということです。

Ferjan Ramírez et al., 2020, PNAS

論文③:言葉が遅い2歳児への親向けプログラムのRCT

ここまでの2本は、主に発達に特別な課題のない赤ちゃんを対象にした研究でした。では、言葉の発達に遅れがある子どもの場合はどうでしょうか。ドイツのハイデルベルク大学が、言葉の遅れがある2歳児の親に3か月間のプログラムを行ったランダム化比較試験を紹介します。

対象は、言葉の理解や認知には問題がないものの、話せる言葉(表出語彙)が少ない2歳児です。2歳の時点で話せる言葉が50語に満たない子どもたちで、選ばれた61人のうち58人が、親がプログラムを受けるグループ(介入群29人)と受けないグループ(待機群29人)にランダムに振り分けられました。

プログラムは「ハイデルベルク親ベース言語介入(HPLI)」と呼ばれる3か月のグループプログラムで、5〜10人の親が集まって、2時間のセッションを7回受けます。中心になるのは、子どもの関心に合わせて話しかける、子どもの発声に応える、子どものペースで会話のキャッチボールをする、といった応答的な関わり方の練習です。絵本の読み聞かせも大事な題材として扱われ、子どもが反応したページで止まって、視線や指さしに合わせて話しかける方法が教えられました。

その結果(最後まで評価できた47人の分析)、3歳の時点で年齢相応の言葉の発達に追いついた子どもは、介入群で75%、待機群で44%でした。言語障害の基準に当てはまった子どもは、介入群で8%、待機群で26%です。

3か月のプログラムでこれだけの差が出たという結果は、「言葉が遅い子はしばらく様子を見ましょう」という対応だけでよいのか、という問いにもつながります。自然に追いつく子も多い一方で、待機群では半数以上が追いついていませんでした。親の関わり方を変えることで、多くの子どもの言葉の発達を後押しできる可能性があります。

Buschmann et al., 2009, Archives of Disease in Childhood

なぜ応答が大事なのか:赤ちゃんが学ぶ仕組み

ここまでの3本の研究に共通しているのは「応答性」です。では、親がタイミングよく反応すると、なぜ子どもの学びが進むのでしょうか。

赤ちゃんの脳は、「自分の行動が結果を引き起こした」という経験から多くを学びます。喃語を出したら親が反応してくれた、という経験は、「自分の声は相手に届く」というコミュニケーションの基本的な感覚を育てると同時に、「どんな声を出すと、どんな反応が返ってくるか」を学ぶきっかけにもなります。ゴールドスタイン氏らの研究で、9か月の赤ちゃんが親の発声の型を取り出して自分の発声に組み込んでいたように、赤ちゃんの学ぶ力は私たちが思っている以上です。

こうした速い学習を支えているのが「社会的随伴性」、つまり自分の行動に誰かがすぐ反応してくれるという経験です。この経験は脳の報酬や学習に関わる領域の働きと関係していて、音を身につけるためのフィードバック学習の仕組みだと考えられています。鳥が歌を覚えるときにも似た仕組みが知られていて、言葉の習得と鳥の歌の習得には共通する神経の土台があることが示唆されています。

もうひとつ、赤ちゃんは生後数か月のうちから、周りの音のパターンに繰り返し触れることで、その言語の音の仕組みを無意識に学んでいきます。この学習は、音を何回聞いたかだけでなく、「自分の行動に対してどんな音が返ってきたか」という文脈の中でずっと効率よく進みます。赤ちゃんの脳は、たまたま聞こえた音よりも、自分の喃語への返事として聞いた音を、より大事な情報として扱っていると考えられています。

フェルハン・ラミレス氏らの研究で、会話のキャッチボールが語彙の伸びと強く関連していたのも、この見方で理解できます。赤ちゃんは聞くだけでなく、声を出して反応をもらうことで学んでいて、ブッシュマン氏らの研究からは、この仕組みが言葉の遅れがある子どもにも同じように働くことがうかがえます。赤ちゃんは、自分の声に親が応えてくれる経験を通して、声の使い方を学んでいるのです。


日常でできること:論文から導き出せる実践

ここまでの研究から、家庭でできることを整理します。特別な教材も専門的な練習も必要ありませんし、読んでみると、もう自然にやっていることも多いと思います。

① 赤ちゃんが声を出したら、すぐに反応する

返事は短くて大丈夫です。「そうなの?」「あー、言えたね」など、喃語に何かしら返してあげることで、「自分の声は届く」という経験が生まれます。ゴールドスタイン氏らの研究では、何を返すかよりも、このタイミングのほうが重要でした。

② 赤ちゃんが興味を持っているものに合わせて話す

子どもが何かを見ていたり触っていたりするときに、それに合わせて話しかけると、言葉の学習が進みやすくなります。ファン・ヴィテルースタイン氏らのレビューでは、「子どもの興味を追う」関わり方が、発達に課題のある子どもにも有効である可能性が示されていました。

③ 子どもが発した言葉を少し広げる(拡張)

赤ちゃんが「まま」と言ったら、「そう、ままだよ」「ままがいるね」と少し広げて返します。これが、システマティックレビューで効果との関連が一貫して示された「拡張(expansion)」です。言い直させたり訂正したりするのではなく、自然に言葉を足して返すのがポイントです。

④ 会話のキャッチボールを意識する

親が一方的に話し続けるのではなく、子どもが反応できる「間」をつくることが大切です。子ども自身が声を出せる機会があることは、言葉の発達と関連しています。

⑤ 「赤ちゃん言葉」を楽しんで使う

少し高い声で、母音を伸ばし気味に話しかけるスタイルは、多くの言語で自然に見られるもので、赤ちゃん言葉が増えるほど子どもの語彙も伸びていました。ちょっと照れくさいと感じる方もいるかもしれませんが、気にせず楽しんで使ってみてください。

⑥ 絵本を一緒に読む時間をつくる

ブッシュマン氏らのプログラムでは、絵本の読み聞かせが、応答的な関わりを実践する場として特に重視されていました。ページをめくるペースを子どもに合わせて、興味を示したところで止まって話しかける。それだけで、言葉の発達を支えるやりとりが自然に生まれます。


我が家ではどうしていたか

我が家では、赤ちゃん言葉を意識して使っていたわけではありませんでした。ただ、娘が「あー」と言ったら「あーだねー」と返したり、「どうしたのー?」と声をかけたりはしていました。いま振り返ると、記事で紹介した「喃語にタイミングよく応える」ことを、自然とやれていたのかもしれません。語尾をのばして返していたあたりも、知らないうちに赤ちゃん言葉に近くなっていたのかな、と思ったりします。

とはいえ、ずっと話しかけ続けていたわけではありません。娘が近くにいて何か声を出していたら、それに乗っかって返す、というくらいでした。1歳になる前には「ぱぱぱぱ」「まんまん」と言うようになっていて、意味はわかっていないだろうなと思いつつも、やりとりをしているうちに娘が笑ったりすると、夫も私も、娘と会話をしているような感覚になりました。

意味がわかって言ったんだろうな、と思えた最初の言葉は「だっこ」でした。手を広げて近づいてきながら「だっく」と言うので、そう言えば抱っこしてもらえるとわかっていたような気がします。記事の中で、喃語に応えてもらう経験が「自分の声は相手に届く」という感覚を育てる、という話をしましたが、娘の「だっく」も、その感覚が言葉になって出てきたものだったのかもしれないな、と思ったりします。

絵本は、まだ内容はわかっていないだろうなと思いながらも、気にせずゆっくり読み聞かせていました。娘が声を出したり指さしたりしたときは、「〇〇だねー」と返していました。犬が好きで、今も犬の絵が出てくると「わんわん」と言いながら楽しそうにしています。子どもが反応したところで言葉を返すのは、「日常でできること」の②や③(子どもの興味に合わせて話す、言葉を少し広げて返す)に近い関わり方だったのかもしれません。

研究を読むと、ただたくさん話しかけるよりも、子どもの声に応えることが大事なようなので、我が家くらいの関わり方でもよかったのかもしれません。「たくさん話しかけなきゃ」と気負ってしまう方は、子どもの声に乗っかるところから始めてみるのもいいかもしれませんね。


まとめ:科学的に言えること、言えないこと

最後に、3本の研究からわかったことと、まだわかっていないことを整理します。

科学的に言えること

  • 赤ちゃんへの声かけは、言語発達に良い影響があることが多くの研究で確認されている

  • 声かけが効く鍵は「応答性」、つまり赤ちゃんの声や行動にタイミングよく反応すること

  • 赤ちゃん言葉と会話のキャッチボールを意識することで、語彙の発達が促進される

  • この効果は家庭の収入や親の学歴に関係なく現れる

  • 言葉の発達に遅れのある子どもにも、応答的な親の関わりは有効である

科学的にまだ言えないこと

  • どの程度の「応答性」があれば十分なのかの具体的な基準

  • 日本語を母語とする子どもへの声かけに、英語圏・ドイツ語圏の研究成果がどこまで当てはまるか

  • 言葉の遅れがある子どもが自然に追いつくケースと追いつかないケースを、早期に見分ける方法

  • 乳幼児期の介入効果が、就学後にどこまで持続するか

3本の研究からわかるのは、声かけには効果があり、赤ちゃんの反応を見ながら応えていくことで、その効果がさらに大きくなるということです。言葉の遅れがある子どもでも、また家庭の収入や学歴にかかわらず、同じ方向の結果が出ていました。

一方で、研究の限界もあります。この分野の研究の多くは欧米で行われているので、日本語の環境や日本の子育てのスタイルにそのまま当てはまるかは注意が必要です。また、「親の応答性が高いと子どもの言葉の発達がよい」という関連は複数の研究で示されていますが、応答性が言葉の発達を促すのか、言葉の発達が進んでいる子どもに親が自然と応答的になるのか、という因果の向きはまだ完全にはわかっていません。

とはいえ、子どもの顔を見ながら「あ、笑ってる」「何か言いたそう」と感じて声をかけている、その自然な関わりが、すでに応答のある声かけそのものなのかもしれません。

"Babies need social interactions with loving adults who talk with them, listen to their babblings, name objects for them, and give them opportunities to explore their worlds."
「赤ちゃんには、話しかけ、喃語に耳を傾け、ものの名前を教えてくれる、愛情ある大人との関わりが必要だ。」

T. Berry Brazelton(ハーバード大学医学部名誉教授)

参考文献

Goldstein, M. H., & Schwade, J. A. (2008). Social feedback to infants' babbling facilitates rapid phonological learning. Psychological Science, 19(5), 515–523. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02117.x

Ferjan Ramírez, N., Lytle, S. R., & Kuhl, P. K. (2020). Parent coaching increases conversational turns and advances infant language development. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(7), 3484–3491. https://doi.org/10.1073/pnas.1921653117

Buschmann, A., Jooss, B., Rupp, A., Feldhusen, F., Pietz, J., & Philippi, H. (2009). Parent based language intervention for 2-year-old children with specific expressive language delay: A randomised controlled trial. Archives of Disease in Childhood, 94(2), 110–116. https://doi.org/10.1136/adc.2008.141572

Hart, B., & Risley, T. R. (1995). Meaningful differences in the everyday experience of young American children. Paul H. Brookes Publishing.

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Lovčević, I., Benders, T., Tsuji, S., & Fusaroli, R. (2025). Acoustic exaggeration of vowels in infant-directed speech: A multimethod meta-analytic review. Psychological Bulletin, 151(6), 669–695. https://doi.org/10.1037/bul0000479