
パパが育児に関わることは、子どもにどんな影響があるのか
「パパにも育児をもっと手伝ってほしい」「子どもとちゃんと向き合ってほしい」と感じているお母さんは、多いのではないでしょうか。一方で、パパが関わると実際に子どもにどんな影響があるのかについては、詳しく知る機会はあまりないかもしれません。
結論から言うと、父親が積極的に育児に関わることは、子どもの学ぶ力、コミュニケーションの力、心の健康に良い影響があることが、複数の研究で示されています。ただ、父親の関わりといっても、その中身や質、タイミングによって、子どもへの影響の大きさは変わります。
また、「どうすればパパに育児に関わってもらえるのか」「父親が家にいない場合はどうすればいいのか」といった、家庭ごとの事情に関わる疑問にも、研究はいくつかのヒントをくれます。この記事では、国際的な学術誌などに掲載された論文をもとに、この3つの疑問を順に見ていきます。
まず、「父親の関わり」とは何か
論文を読む前に、ひとつ整理しておきたいことがあります。研究の世界では、「父親の関わり」を、子どものそばにいるかどうかだけで測っているわけではありません。発達心理学の分野では、次の3つの面に分けて考えることがよくあります。
直接ふれあう時間:一緒に遊ぶ、本を読む、お世話をするなど、子どもと向き合ってやりとりしている時間。
そばにいられる状態:家にいて、呼ばれたら応えられる状態。
段取りする責任:受診の予定を立てる、保育園の持ち物を管理するなど、子どもに必要なことを考えて準備する役割。
この3つのうち、子どもの発達との関係が最もはっきり示されているのは、直接ふれあう時間の質です。家にいるだけ、お金を稼いでいるだけよりも、「一緒に何かをしているか」が、子どもの発達に関わっていると考えられています。
第1章:父親の関わりと子どもの発達
イタリアのトリノ大学の研究チーム(Rollèら、2019年)は、PubMedなど複数のデータベースから40本の論文を選び、父親の関わりと子どもの認知の発達の関係をまとめました。その結果、父親が子どもと一緒に本を読んだり、会話をしたり、遊びを通じて頭を使う刺激を与えたりすることが、子どもの語彙力、数の理解、読む力と関連していることが、複数の研究で確認されています。
ここで大事なのは、「お母さんがしっかり読み聞かせをしていれば、お父さんの分はなくても同じ」とは言い切れない、という点です。ある研究では、読み聞かせの頻度は母親のほうが高かったものの、父親による読み聞かせも、母親の分とは別に、子どもの語彙力や認知の発達と関連していました。父親の関わりには、母親の関わりとは別の、父親ならではの良い影響があるということです。
また、低・中所得国38か国の3〜4歳の子ども87,286人のデータを分析した大規模な研究(Jeongら、2016年)では、父親が遊びや学びの活動にまったく関わっていない子どもは、よく関わっている子どもに比べて、発達の指標が低いという結果が出ています。
社会性や気持ちをコントロールする力との関係
「社会情動発達」という少し難しい言葉があります。自分の気持ちをコントロールする力、友達と協力する力、相手の気持ちに共感する力などのことで、小学校に入ってから授業についていけるか、友達とうまく関係を築けるかにもつながる、大事な力です。
Harrisは、1998〜2008年に発表された13本の研究をまとめて分析し、父親が積極的に関わっている子どもほど、こうした社会情動的な力が高い傾向があることを示しました(効果量r = .22、統計的に有意)。
効果量r = .22は、関連の強さとしては「小さめから中くらい」にあたります。一つの研究ではなく、13本の研究をまとめた結果として、父親の関わりと子どもの社会性のあいだに関連が見られたということです。
関わり方のタイプによる違い
では、どんな関わり方が特に大事なのでしょうか。オハイオ州立大学の研究(Yoonら、2021年)では、低所得家庭の父親2,650人を対象に、関わり方のパターンを統計的な方法で分類しました(潜在クラス分析といって、似た特徴を持つグループを見つけ出す方法です)。その結果、次の4つのグループに分かれました。
①積極的によく関わるグループ(47.5%)
子どもと過ごす時間が多く、愛情表現も豊かで、怒鳴ったり叩いたりすることが少ない。
②関わりはあるが、しつけが厳しいグループ(42%)
一緒に遊んだり愛情を示したりする一方で、怒鳴ったり体罰を使ったりすることが多い。
③頭を使う刺激が少ないグループ(8%)
子どもと過ごす時間はあり、愛情も示しているが、本を読む、歌を歌う、話しかけるといった活動がほとんどない。
④全体的に関わりが少ないグループ(2%)
この4つのうち、子どもの発達で最も不利な結果だったのは、③の「頭を使う刺激が少ない」グループでした。③のグループの子どもの語彙力テスト(PPVT)の平均点は79.08点で、①のグループの85.03点より有意に低く、社会情動的な力や行動の問題でも、①②に比べて不利な結果でした。
父親がそばにいる、温かく接している、というだけでは十分ではないのかもしれません。一緒に本を読む、歌を歌う、話しかけるといった頭を使う活動が、子どもの発達に特に関わっていると考えられます。
長期的な行動や心の問題との関係
スウェーデンのウプサラ大学の研究チーム(Sarkadiら、2008年)は、24本の縦断研究、合計約22,300人分のデータを系統的にまとめました。縦断研究とは、同じ子どもたちを何年もかけて追いかけ、父親の関わりが多かった子と少なかった子で、その後どんな違いがあったかを調べる研究です。一度きりのアンケートではなく、時間の流れの中で変化を追っているのが強みです。
母親とそのパートナーの男性が一緒に暮らしていることは、子どもの問題行動(攻撃的な行動など)が少ないことと関連していました。また、父親が積極的に関わることは、男の子の行動の問題を減らし、女の子が若い大人になったときの心理的な問題を減らすことと関連していました。低所得の家庭では、父親がよく関わっていることが、その後の非行や経済的な困難の少なさとも関連していました。
一方で、先ほどのYoonらの研究の②のグループには、大切な結果が含まれています。父親がよく関わって愛情も示しているのに、怒鳴ったり叩いたりすることが多い場合、子どもの問題行動(怒りっぽい、落ち着きがない、引きこもりがちなど)は有意に多くなっていました。ほかの面でどれだけ積極的に関わっていても、体罰や強い言葉での叱責は、その良い影響を打ち消してしまう可能性があります。
第2章:父親が育児に関わりやすくなる環境
父親が育児に関わるかどうかは、その人の性格ややる気しだいだと思われがちです。でも研究からは、父親の関わりは本人の気持ちだけでなく、家庭の中の環境や状況によって大きく変わることがわかってきています。
この章では、父親の育児への関わりを支える環境について、研究でわかっていることを紹介します。「こうしなさい」という話ではなく、「研究ではこういう家庭で父親の関わりが増えた」という観察として読んでもらえたらと思います。
父親向けプログラムを比べたRCT
カリフォルニア大学バークレー校などの研究チーム(Cowanら、2009年)は、主に低所得のメキシコ系とヨーロッパ系のアメリカ人家庭289組を対象に、父親の関わりを増やすためのプログラムを行いました。参加者はランダムに3つのグループに分けられています。ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる方法で、もともと熱心な父親が特定のグループに偏ることがないので、プログラムそのものの効果を測ることができます。
父親だけのグループ(16週間、週2時間)
夫婦で参加するグループ(同じく16週間)
1回だけの説明会(父親の大切さについての説明会、1回3時間)
その結果、1回だけの説明会では、父親の関わりはほとんど変わりませんでした。それどころか、説明会のグループでは18か月後に、子どもの攻撃性、落ち着きのなさ、引きこもり、不安がすべて悪化していました。
父親の大切さを知識として伝えるだけでは、行動は変わらなかったということです。
継続して参加した家庭での変化
一方、16週間続けてグループに参加した家庭では、父親の「自分は父親だ」という実感が強まり、食事や通院、お世話などの実際の育児の分担も増えていました。そして、父親だけのグループでも夫婦のグループでも、子どもの行動の問題は18か月後も悪化せず、安定していました。説明会のグループで見られた悪化が、続けて参加することで防がれていたことになります。
さらに、夫婦で参加したグループでは、父親の関わりが増えたことに加えて、育児のストレスもはっきり減っていました。父親が関わることで、育児の負担が分散されたためだと考えられます。
この16週間のプログラムで扱われたのは、育児のやり方の指導ではありませんでした。「自分はどんな父親でいたいか」「自分は親からどう育てられたか」「毎日のストレスとどう向き合うか」といった、父親自身が自分を振り返る時間が、くり返し設けられていました。育て方の知識よりも、父親としての自覚と、それを続けて支える場があったことが、関わりにつながったと考えられます。
父親が関わりやすくなる条件
Cowanらの研究と第1章の研究をあわせて見ると、父親の関わりが生まれやすかった環境には、いくつかの共通点があります。
1. 父親が「自分は父親だ」という実感を持てていた
プログラムで効果があったのは、育児スキルを身につけることよりも、父親としての自覚を育てる時間でした。「子どもにどんな大人になってほしいか」「そのために自分は何ができるか」を考える機会が、関わる動機になっていました。
2. 具体的にやることが決まっていた
Yoonらの研究のように、父親の関わりの中でも、一緒に本を読む、歌を歌う、話しかけるといった具体的な活動が、子どもの発達と強く関連していました。関わり方がぼんやりしているより、「何をするか」が決まっているほうが、実際の行動につながりやすいと考えられます。
3. 怒鳴ったり叩いたりする関わりが少なかった
Yoonらの分析が示したように、怒鳴ったり体罰を使ったりする関わりは、ほかの面でどれだけ積極的に関わっていても、その良い影響を打ち消してしまう可能性があります。関わりの量だけでなく、質が問われる部分です。
4. 続けて支えてくれる場があった
1回の説明会では変化がなかった一方で、16週間続けて参加したグループでは変化が見られました。父親の関わりを支える環境は、一度のきっかけではなく、時間をかけて育っていくものなのだと思います。
第3章:父親がいない、関わるのが難しい場合
離婚や別居、単身赴任など、さまざまな事情で父親が日常的に関われない家庭も少なくありません。この章では、まず研究でわかっていることをひとつお伝えしたうえで、「では何ができるか」を中心に見ていきます。
父親の不在と子どもの心の健康
イギリスのブリストル大学の研究チーム(Culpinら、2022年)が、8,409人の子どもを24歳まで追跡した研究では、特に生まれてから5歳までの時期に父親が家にいなかった場合、その後の抑うつのリスクが高くなる傾向が見られました。社会経済的な背景や家庭内の対立などを考慮しても残った結果です。
ただし、この研究で測れていたのは「父親と一緒に暮らしているかどうか」だけで、父親がどれだけ関わり続けていたかは測れていません。研究者自身も、別々に暮らしていても、会う頻度や関わりの質によってリスクが和らぐ可能性があると書いています。つまりこの結果は、父親と離れて暮らすことのなかでも厳しい条件に近いものであり、関わり続けている場合や、周りの支えがある場合には、話が変わってくる可能性が十分にあります。
関わるのは実の父親でなくてもいい
Sarkadiら(2008)の系統的レビューに含まれる18本の研究のうち12本は、実の父親だけでなく、継父や母親のパートナーなど、血のつながりのない「父親のような存在の大人(father figure)」も対象に含めていました。そして、誰が関わるかよりも、どれだけ積極的に関わるかのほうが、子どもの発達に強く影響していました。
ある研究では、積極的に関わる継父のほうが、あまり関わらない実の父親よりも、子どもが16歳になったときの気持ちや行動の問題を大きく減らしていた可能性が示されています。また、Culpinら(2022)も、身近に積極的に関わる男性の大人がいた場合には、見られたリスクが和らいでいた可能性があると、研究の限界として書いています。
研究が示しているのは、「実の父親がいなければ終わり」ではなく、子どもの周りに積極的に関わってくれる大人がいることが大切だということです。
具体的に何ができるか
1. 別居や単身赴任中でも、父親に定期的に関わってもらう
Sarkadiらのレビューには、別々に暮らす父親でも、月に1回以上会っていた場合に、子どもの行動の経過がよくなっていた研究が含まれています。ビデオ通話での絵本の読み聞かせ、一緒に歌う、近況を話すといった頭を使うやりとりが、第1章で見たような効果につながる可能性があります。毎日でなくても、決まった曜日や時間に関わることが大事になりそうです。
2. 祖父やおじ、信頼できる身近な大人に関わってもらう
一人の人が完璧に父親の代わりをする必要はありません。祖父と公園に行く、おじと工作をする、保育園や幼稚園の先生との関係を深めるなど、いろいろな大人とのやりとりが子どもの支えになります。関わる人が血縁者である必要もありません。
3. お母さん自身の心の健康を守ることも、子どものためになる
Cowanらの研究では、夫婦で参加したグループで育児のストレスが減っていましたが、親の抱えるストレスは子どもの環境にも影響します。「一人でなんとかしなければ」と抱え込まずに、地域の子育て支援やファミリー・サポート、信頼できる人への相談を使うことが、結果的に子どものためにもなります。
4. 関わりの質を意識する
父親がいてもいなくても、第1章で見たように、そばにいること以上に、一緒に本を読む、話す、歌うといった頭を使う活動が子どもの発達と関わっています。お母さんや祖父母がこの視点を持つだけでも、毎日の関わりが子どもにとってより豊かなものになると思います。
我が家ではどうしていたか
我が家では、夫が4か月の育休をとりました。育休中は、授乳は私、それ以外のお世話は基本的に夫が担当していました。夫の仕事が始まってからは、日中は私が、夜はできるだけ夫が担当しています。
お風呂は夫の担当ですが、絵本の読み聞かせや遊びは特に担当を決めておらず、二人で一緒に、あるいはそれぞれが関わっています。夫は、どれだけ忙しくても娘と直接関わる時間を少しでもとるようにしていて、絵本を読んだり、一緒に歌を歌ったりもよくしています。怒鳴ったり叩いたりすることも、もともとありません。研究で特に大事とされていた「一緒に本を読む、歌う、話しかける」関わりを、夫は意識しなくても日常の中で自然とやれていたのかもしれません。
夫は育休をとってみて、小さな子を育てるのは大変だということを身をもって感じたそうです。一方で、自分から関わると育児が楽しく感じられ、娘との愛着ができてきている実感もあるそうで、これからもちゃんと関わっていきたいと話しています。
Cowanらの研究では、父親の大切さを1回説明するだけでは関わりは変わらず、続けて関わるなかで父親としての自覚が育つことが大事だとされていました。夫自身も、行政の説明会のようなものより、毎日娘と関わっていることが、父親としての自覚が芽生えるきっかけになっていると話しています。
育休のとりやすさや働き方は家庭ごとに事情が違うと思いますが、毎日少しずつでも関わる時間を持てると、それが父親としての自覚にもつながっていくのかもしれませんね。
まとめ:科学的に言えること、まだ言えないこと
科学的に言えること
父親が積極的に、定期的に育児に関わること、特に一緒に本を読む、歌う、話しかける、外で遊ぶといった頭を使う活動は、子どもの学ぶ力、社会情動的な力、心の健康に良い影響があることが、複数の研究で示されています。父親の関わりを増やすプログラムでは、1回の説明会よりも継続的な参加のほうが効果があり、夫婦で参加した場合には育児のストレスの減少も見られました。また、特に生まれてから5歳までの時期に父親が家にいないことは、子どもの長い目で見た心の健康のリスクと関連していることが、大規模な追跡調査で示されています。
科学的にまだ言えないこと
父親の関わりが子どもの発達を良くしているのか、もともと発達が順調な子どもに父親が関わりやすいのか、という因果の向きは、多くの研究でまだはっきりしていません。どんな関わり方が最も効果的かについても、研究によって測り方が違うので、単純に比べるのは難しい状況です。さらに、この記事で紹介した研究の多くは欧米のデータです。長時間労働や単身赴任、育休の取りにくさなど、日本の環境にそのまま当てはめるには注意が必要です。
父親の育児への関わりは、「あればいい」程度のものではありません。でも同時に、「父親がいなければ終わり」でも、「父親がいれば大丈夫」でもありません。関わりの中身や質、夫婦の関係、お母さん自身の状態などが組み合わさって、子どもの育ちは支えられていきます。研究から受け取れるのは、「完璧にやらなければ」というプレッシャーではなく、「何を大事にすると子どもにとって意味があるか」というヒントなのだと思います。
参考文献
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